「ブレイクショットの軌跡」小説ネタバレ感想!38歳高校生ママ&ライターが思うこと

直木賞候補作となった「ブレイクショットの軌跡」ずっと気になっていたので読んでみました。高校生の娘を持つ元子役俳優・現演劇講師&ライターです。私逢坂さんの小説を読むのは初めて。
でも、読み始めて、私は後悔します。
「ブレイクショットの軌跡」の内容
「ブレイクショットの軌跡」は、本屋大賞受賞作『同志少女よ、敵を撃て』の逢坂冬馬氏による第3長篇作品。第173回直木賞候補作。
1台のSUV「ブレイクショット」を巡る8つの物語で構成された現代日本社会派小説。自動車期間工、投資会社経営陣、板金工親子、悪徳不動産営業など、様々な立場の人々の人生が一台の車を通じて交錯していく連作長編です。
読み始めて、私は後悔します。

登場人物が多すぎる
私は俳優という仕事柄(?)小説は頭の中でセリフが流れながら読む派です。
ある程度登場人物の声というかイメージがあって、くるくるかわりながら読んでいる感じ。
そのため、メインの主人公がいて、その周りの人たちで物語が進んでいく小説のほうが好みです。


短編小説の場合は、一話完結のものならその章ごとに集中して読めるから好きです。

今回読んだブレイクショットは、章ごとに話し手がかわっていく、かつ時系列もバラバラ。
「あれ?この人だれだっけ?」
「この人とこの人の関係性はどんなだっけ?」
とわからなくなることもしばしば。
それは私の頭の回転が遅いからなのかもしれないけど笑
でも、そんな頭の混乱を吹き飛ばすほどおもしろい小説でした。
このあとはネタバレを含みますので、未読の方は読んでからまたもどってきてね~!
「ブレイクショットの軌跡」の登場人物について
とにかく個性豊かな登場人物がでてくる@ブレイクショットの軌跡」
簡単にまとめるとこんなかんじ。
主要な登場人物
- 本田昴: 自動車期間工。Twitterが社会との唯一のつながり
- 鈴木世玲奈: 昴の交際相手
- 霧山冬至: ファンドグループ「ラビリンス」の副社長。タワーマンション在住
- 霧山香織: 冬至の妻で修悟の母。
- 霧山修悟: 冬至の息子。サッカーに打ち込み、プロを夢見る少年
- 後藤友彦: 板金工の職人。実直な性格
- 後藤晴斗: 友彦の息子。修悟が慕う頭脳明晰な人物。サッカーが好き
- 十村稔: 松代不動産の営業職。業績向上に躍起
- 志気和馬: 「カズ塾長」名義で経済系YouTube動画を配信。特殊詐欺グループの一員
- 門崎亜子: 真田の上司として紹介された女性
- 宮苑秀直:ラビリンスの社長。冬至と旧友
多い!
多いよ!!ほんとに、わけわかんなくなっちゃう!
でもなぜか最後にきっちりまとまる。
それはさすがの手腕としか言いようがない。
物語はざっくり分けて
- 投資ファンドの経営者
- 板金工と、才能あるその息子
- 悪徳不動産会社の社員
- アフリカの少年兵
「ブレイクショットの軌跡」の登場人物:門崎亜子
一番驚いたのは、あれですよ…
アッコの正体(?)

大丈夫?ネタバレNGな人、残ってないですか?ではいきますよ・・・
いや~!!!ラストまで全然気づかなかった。
モノローグで出てくる本田昴とせれなは、物語が始まると全然出てこないのね。
なんなら忘れてた。
そのあとずっと「ブレイクショット」という車を軸にいろいろな人の話が始まるから、単純に「いわくつきの車が作られた工場はここだった」みたいなモノローグだと思っていたの。
最後の最後に、「え、亜子がセレナさんだったの!?」って驚いたわ。
んで、オーバーザーレインボーの曲を見て、「セレナがタカノマキだったのか!?」と思ったけど、読み返したら違った。
あぁ。アッコのファンだったあの子かぁ。
見つけ出して応援してたのかなぁ。
「ブレイクショットの軌跡」の登場人物:後藤晴斗
高1の娘と中2の息子を持つ私にとって、この人に関して特筆したい。
しかも、私の母は2年前脳出血で倒れたのだ。

いまでこそ元気にピアノ教室運営に復帰しているが、脳の障害というのは大変なものだと実感していた。

優秀な息子を尊敬し、だれよりも仕事を頑張って家庭を守ってきた友彦。
正義をとるか、安定をとるか悩んでいるところで事故にあった。
前頭葉損傷で高次脳機能障害。
特に、友彦が人が変わったように暴言を吐いたり暴力をふるったり、ハルの気持ちを考えたら胸が押しつぶされそうになった。
ていうか、泣いた。
あのねえ~・・・・
あれほどかわいがっていた後輩の翔くんを、だれだかわからずに邪険にしてしまうとか、
晴斗を殴った後、はっと気づいて「晴斗!どうしたんだ!ケガしたのか?!」って心配するところとか、泣いた。
だって、自分じゃどうしようもないんだもん。
そりゃ「あの事故で死んでいればよかった」って思うよね。家族のことを思ったら。
でも、晴斗は「お父さんはトンビが鷹を生んだっていうけど、それはお父さんとお母さんが僕にいろんなものをくれたからだよ」っていうのよ。
晴斗ぉぉぉぉっぉぉぉお

おまえしあわせになってくれよぉぉぉぉぉ
高校生娘、中学生息子を持つ私は切に願う。
しかしな、晴斗はその後もいろいろなことを経験していくんや。
もうそれはほんとうにいろいろ。
この物語は晴斗の物語といってもいいだろう。
それくらい、彼には幸せになってほしいと読みながらおもったものだ。
「ブレイクショットの軌跡」の登場人物:霧山香織
香織さんについて、あまり本編にはでてこないけれど、いろいろな思いを持っているのだろうなと端々に感じた。
仕事にやりがいを感じていたのに、冬至のある意味「見栄」から専業主婦となった香織。
修悟のサッカーに関するサポートをしていたが、やりたいことはたくさんあっただろうなと思う。
一般論だけど、どうしても「母親が」学校のこと、習い事の送迎、そのたもろもろを引き受けがち。
「共働き」という表現が「正社員の夫婦」「正社員とパート」「正社員と個人事業主」などなど多様な働き方の夫婦を指すようになってから久しいが、
霧山家は「正社員(役員)と専業主婦」の夫婦。
まーーーー、税金のあれこれや世間体などなど、夫婦によって働き方は様々だけど、いくら冬至が役員でかなり稼いでいたとはいえ、税金でけっこうもっていかれるだろうし、タワマンのローンはラクではなかったのでは。
修吾がユースとして活動するだけの余裕はあっただろうけど、それもインサイダー取引の事件で雲行きが怪しくなってくる。
結局香織は復職したんだったかしら。パートだったかな。
冬至が、香織の仕事に対するやりがいに関するリスペクトをもっていたら、霧山家の運命はもしかしたら変わっていたかも。
タワマンにも住まなかったかもしれない。
香織の「ふわふわしてタワマンは嫌」という意見がもう少し重要視されていたかもしれない。
専業主婦、正社員ワーママ、派遣社員ワーママ、パートママ、パートフルタイムママ、そしてフリーランスママ。
「ママ」の分類(?)、働き方は多様化している。
でも、子供を思う気持ちは、どんなパパもママも共通していると思う。
子どもの未来がキラキラ輝いたものになりますように。
そのために、一生懸命働き、やりたいことはやらせてあげたい。
やりたいことのためにサポートしてあげたい。
それが、たとえ自分を犠牲にすることになってもね。
でも私は、パパもママも自分のやりたいことも頭の片隅に入れておいてほしいなと思う。
先日中学生の息子が、私のライブ出演時の仕事をサポートしてくれました。

その時彼は、「お姉ちゃんも僕もここまで大きくなったし、ママはママでやりたいことやりなね」と言ってくれました。
パパやママがやりたい仕事やってる、やりたいことやってる、その姿を見ることが子供たちにとって何かを学ぶ機会なのかもしれない。
その背中を追いかけていたのに、記憶がない、優しかった父親の影が見当たらない、そんな晴斗の気持ちを考えると、やっぱり晴斗幸せになってくれ・・・!と思ってしまうよ。
また晴斗の話になっちゃった。
香織さんが、やりたい仕事を続けられてたらまた違ったのにな、と読むたびに思う私でした。
「ブレイクショットの軌跡」の登場人物:宮苑秀直
私はね、宮苑秀直(ヒデさん)のすごエピソードをもっと聞きたかったなと思うわけ。
ゴリゴリエリートの経営者。
役員の「あれ?」という動きも事前に察知して先回りして動く。
ビリヤードで晴斗に勝負を挑む宮苑。
なにもかもすべてお見通しといわんばかりの、自信にあふれた宮苑の立ち居振る舞い。
経営者、カリスマ、取締役からの失墜…
どれをとってもドラマティックだけど、何があってもひょうひょうとしている印象すらある宮苑。
ぜひ宮苑スピンオフを読みたい私であった。
まとめ
ブレイクショットの軌跡、小説としては長編に入るのではないかと思うけど私は一気読みしてしまった。
ただし、登場人物それぞれがとても濃いので、何度か戻って読み返しもした。
人生は一度きり。
何があるかわからないが、自分に課された目の前の運命に対して、どうすべきかしっかり見極め、自分の道を進んでいく。
この小説からはなにか「生き方」のようなものを学んだ気がした。
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