『燕は戻ってこない』桐野 夏生|感想「代理出産で当事者は誰?」

燕は戻ってこない レビュー

『燕は戻ってこない』桐野 夏生|感想「代理出産での当事者って誰になる?」

 

桐野 夏生さんの新作『燕(つばめ)は戻ってこない』を読みました。貧困を理由に代理母として代理出産することになったリキ。妊娠・出産するのか?依頼した夫婦の思いは?リキはどうなる?

『燕は戻ってこない』桐野 夏生

2022年3月に出版された桐野 夏生さんの新作。

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ある日、毎日新聞の「貧困は女性のせい?」という桐野さんのインタビューを読んだんです。

性差別と搾取の問題提起した新刊「燕はもどってこない」の内容インタビュー。

とても興味深く読みました。

「久しぶりに新刊の長編小説を読みたい。」

そう思った私は発売日にこの「燕はもどってこない」Amazonで購入。

あらすじ↓

29歳、女性、独身、地方出身、非正規労働者。
子宮・自由・尊厳を赤の他人に差し出し、東京で「代理母」となった彼女に、失うものなどあるはずがなかった――。

北海道での介護職を辞し、憧れの東京で病院事務の仕事に就くも、非正規雇用ゆえに困窮を極める29歳女性・リキ。「いい副収入になる」と同僚のテルに卵子提供を勧められ、ためらいながらもアメリカの生殖医療専門クリニック「プランテ」の日本支部に赴くと、国内では認められていない〈代理母出産〉を持ち掛けられ……。

『OUT』から25年、女性たちの困窮と憤怒を捉えつづける作家による、予言的ディストピア。

Amazonより

【この記事を書いているのはこんな人】

小学生2人のママライター。元子役声優・スタバ店員などの経験からライター&ブロガーとして活動中。

最近はライターとして、指定された小説かビジネス書を読むことが多く、

久しぶりに「読みたい!」と純粋に知的好奇心がくすぐられ購入!

なぜか惹かれたかというと、

代理母という世界を覗いてみたかったから。

私は小学生の娘と息子のママ。

自分が経験した「出産」というできごとを、

誰かのために「代理」で行う。

どんな人なのか、それに関わる人々を見て見たかった。そんな理由です。

もちろんフィクションではあるけれど、

「いまと違う世界に飛べる」という純粋たる小説の楽しみ方をしたいと思ったのです。

『燕は戻ってこない』感想・レビュー

ネタバレを含みますので、どうぞ読み終わってからご覧ください!

ラストのゆくえなど決定的なことは書きませんが、内容をあまり知りたくない方は読まないことをおすすめします。

Amazonで買ったら、意外と分厚くてびっくり!

書店で買うのとはまた違ったサプライズです。

読み始めると止まらなくなり、1日であっという間に読破。

いろいろな属性の人がいろいろな立場から物事をとらえており、社会の縮図のようなストーリーでした。

『燕は戻ってこない』主な登場人物

この小説の主な登場人物

  • 代理母となる派遣社員リキ
  • 容姿端麗なサラブレットバレエダンサー・基(もとい)
  • 基の妻・悠子
  • 悠子の美大時代の友人りりこ
  • 基の母・千味子
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代理母となる派遣社員リキの物語

主人公のリキは、北海道の短大を卒業し、地元で介護職員として就職したのちに東京へ。

派遣社員として東京でギリギリの生活を送る29歳です。

奨学金返済のため派遣社員と風俗勤務を掛け持ちする同僚テルに、

卵子提供のバイトを持ち掛けられます。

しかしそこで、代理母の打診を受けるリキ。

お金と引き換えに子宮を差し出すという「プロジェクト」へと足を踏み入れたのです。

出産を経験しているママ目線の感想

出産を経験したものからすると、

お金のためとはいえ代理で生むというリキの決断には驚き。

もちろんそうせざるを得ない状況でもあったというのもあるけれど。

逆を言えば出産経験がないからこそ、決断できたのかもしれない、とも言えるのかも。

妊娠中・出産時もそうだけど、私が一番つらかったのは産後。

いや、出産時も痛いんだけど、

出産後のもろもろの体が受けたダメージの方がつらかった…しばらく続くし。

私は、この小説の中の位置づけとしては

「結婚も出産もして、欲しいものをすべて手に入れた人」にあてはまる。

でも結局のところ、隣の芝生は青いし、現状に満足しきる人ってごくわずかだと思う。

貧困は辛いけど、もしお金があればフットワーク軽くどこへでも行けるであろう独身のリキはうらやましい。

元ダンサーである夫の食事管理に適度に付き合いながらも、イラストレーターの仕事をしている妻・草桶悠子の暮らしも魅力的。

特に、悠子の友人春画作家のりりこの奔放さは突き抜けていて、

あれだけ自由に生きられれば苦労はないなと思うほど。

まぁ、りりこの自由さは、実家の経済力あってのことだけど。

結局、世の中はお金があればなんでも自由になるのか?と思いながらも、

そうでもないのかもしれないと読み進めていきました。

代理出産の費用は高額。

リキは、草桶夫婦に報酬として目が飛び出るほどの金額を要求します。

病院代なども夫婦が持つため、トータル費用は膨大。

それでも、夫婦間で子供に恵まれなくても、お金があれば代理出産をお願いするという選択肢もあるってこと。

つまり、お金があれば手に入る、ということになるのか…?

お金があれば物欲は満たされる。

経験も買うことができる。

でもそれ以外の何かがあるはずだけど、具体的には愛情だの母性などと抽象的なことしかでてこないなぁと思い、本を読み終えました。

「当事者」はだれ?

この小説を読んで思ったことは、結局のところ「代理」はすべて「代理」でしかないということ。

みんなどこか「他人事」。

  • 代理母になると契約したのに契約違反をするリキ
  • リキが臨月なのにベビー用品の手配を全くしていない基
  • 自分は蚊帳の外だと言いながらも基とくっついたりもどったり、自分勝手ともいえる行動をする妻・悠子
  • 心配事があるのに遺伝子検査をしないリキ。いつから検査できるかなどを調べず「産んでみなければわからない」とまるでガチャのよう。

まれに「お母さんは自分のお腹の中で子供が育つけど、お父さんはいきなりお父さんになるから当事者意識がなくお手伝い感覚」などと言われているのを目にする。

この『燕は戻ってこない』の登場人物は、みんながみんな当事者意識がないように感じてしまいました。

もちろん「代理」なのだから、そもそもリキには当事者意識がなくて当然なのかもしれない。

でも、自分の体を人のために貸す決断をしてビジネスと割り切っているのなら、それなりの対応は必要ではないかと思う。

基も悠子も、夫婦で話し合って代理出産を決めたというわりにはブレブレ。

悠子はなんだか途中で消極的になってしまうし、基は「子供はかわいいだろうなぁ~」ってなんかのんき。

子供にはバレエをやらせようとか留学させようとか、そういう妄想ばかりで、そこに行きつくまでの過程があるということが分かってない。

「ちょっと目を離したら死んでしまうかもしれない生き物」が、

「すこし一人にしても大丈夫な生き物」なり、

「四六時中見ていなくてもある程度一人で何とかなる生き物」になってからのイメージしかほぼしていないんだよね。

「子供を育てるのは大変だと思う、一人ではできない。」と言いながらも、臨月になってからベビー用品何が要るの?みたいなこと言ってる。

産むのはリキにお願いしているとはいえ、ちょっと他人事すぎるなぁって。

その時の妻・悠子との関係とかもろもろの状況が基をそうさせたのかもしれないけど、

果たして妊娠したのが悠子でも準備は任せっきりにしたのではないかなと思ってしまう。

 

しかし全く関係ない人間であるのに「私は代理出産には反対」などといちいち口をだしていた悠子の友達りりこにはイラっとさせられた。

でも、りりこは妊娠した後のリキに住み込みの仕事を与えます。

「子供って誰のものなの?」という本質的な質問を悠子に投げかけたり、

リキのピンチにも冷静に対応。

けっこうりりこは「人助け」をしているのではと思い、読み終わったころにはりりこのファンになっていた私でした。

そもそも代理出産は日本でも可能なの?

代理母がテーマですが、そもそも日本で代理出産ってできるものなのでしょうか?

気になって調べてみました。

法律で禁止されているわけではないですが、認められてもいないそう。

日本産科婦人科学会により代理出産は認められていないため、法制化されている海外へいく必要があります。

代理出産の目的は、主に不妊治療の一環で方法は2つ。

ひとつは「夫の精子」と「妻の卵子(または卵子提供者)」で体外受精して代理母の子宮に入れる方法。

そして今回の小説のテーマである、夫の精子を「サロゲートマザー」の子宮に注入し人工授精させる方法があるそう。(参考サイト

サロゲートマザーの場合、夫の遺伝子は受け継がれますが、妻との血縁関係はなくなります。

この小説では、リキがサロゲートマザーとして元バレエダンサーの草桶基と悠子夫婦の子供を代理出産することになります。

そういうところから、悠子は「蚊帳の外」で「自分は関係ない」と思い始めてしまうんですね。

乱暴な言い方をしてしまうと、

男性からしてみれば妻が産もうが誰が産もうが関係ないっちゃ関係ないのかも。

倫理的なことや感情的なことがありますが、

「生殖」とか「遺伝子を残す」という面だけでいうと、関係ないのでは?

そういう面で見るとリキが「産む機械のように扱われるのはイヤ」と感じた理由も少しわかる気がします。

『燕は戻ってこない』感想まとめ

ひとが子孫を残す意味とは?

出産とは?

女性と男性の役割とは?

貧困とは?

さまざまなことを考えて頭から湯気が出てしまいそうな長編小説でした。

デリケートなトピックだし、読んでしんどいなと思う人もいると思うけれど、私は読んでみてよかった。

いろいろな環境・属性・性格の、いろいろな人の人生のストーリーを読むと、

他者を想像することが出来て思いやりを持てるようになると思うから。

それが、いろいろなジャンルの小説を読む大きな理由の一つかもしれません。

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